「プレアビヒア日本協会」理事長 森田徳忠 (2015.10.20)
本年2月に、タイを含めたUNESCO加盟の9か国政府は、これまで懸案だった「世界遺産プレアビヒア寺院」の修復を目的とした支援団をスタートさせました。Founding Membersはインド、中国(以上共同議長国)、日本、フランス、米国、ベルギー、韓国、タイ、カンボジアです。これにより、「遺跡の修復」そのものを手がける担い手がようやく決まったわけで、国際社会からの注目度も一挙に高まることが期待されます。会員の皆様のサポートの下に当会が支援してきた「エコ・ビレジ」は、「寺院」のいわば地元であり、将来「門前町」として機能すべき村です。ここに至るまでの間、当会はこの村を支援してきた唯一のNGOでしたが、国際社会による今回の展開によって、官・民合わせて多くの仲間が我々に加わり、プレアビヒアを盛り上げてくれる事でしょう。我々にとっても朗報です。この機会に当会の活動をご支援下さった皆様方に御礼申しあげる次第です。
ところで、このように新らしい環境の下で、私はかねてより2015年を「プレアビヒア元年」と位置附け、飛躍の年としたいと考えて参りました。当会のプロジェクト・サイトはかってインドシナ戦争の最後の激戦地であったために、カンボジア国内においても開発が非常に遅れた地域です。住民の大多数はカンボジア和平後にこの地に入植した農民により構成されていますが、エコビレッジの住民の所得はいまだ低水準にとどまっているのが現状です。農民の生活向上には農業技術の導入、人的資源の育成が急務であることはいうまでもありません。またこれまであまり目を向けられてこなかった森林・環境保全、自然形態系の保護などを通じて、この地域の魅力維持に取り組む必要があることは勿論です。農村の自然・景観の保全など観光関連の活動にも焦点をあてていく事が、地元住民の生活を支える上で不可欠です。
どこの社会でも、貴重な文化遺産がしっかり守られている所では、培った技術や伝統、コミニュテイとしての強い連帯意識がその基礎となっています。プレアビヒアの場合は不幸にして自国が経験した歴史的な理由により、その基盤をなくしてしまいました。現地社会はこれを辛抱強く構築していく必要があります。そのために必要とされるのは自力による地元コミュニティの継続的な底上と、それをもとにした遺跡保護への彼等の協力が不可欠です。そしてそれを可能にするのは農業生産力の回復と観光資源の有効活用による経済基盤の強化でしょう。その仕事を担うのは彼ら「門前町」の人達です。我々は経済基盤強化の方法を示し、必要な技術を移転する事によって、彼等の再スタートの手助けをする。これはエコ・ビレッジにある2,000戸余りの農家全てを直接の支援対象とする訳ではなく、限定された場所でパイロット・ファーム(モデル・ファーム)を設営する。そこはいわば地元の指導者を養成したり、農民に直接指導するための「教室」として機能します。農業やエコ・ツアリズムの知識を広めるための「見本提供」と「グループ・リーダー作り」が当会の主な仕事です。
この目的のために、現地側から当会に12 hrの土地が提供されています。これまで皆様方からのご支援により、そのうちの約1/3の開発がほぼ完了しています。また「東京クラブ」、「緑の募金」からのご支援で植樹活動が可能になりました。最近では福岡のFYC社による農業技術者派遣により、米作が可能になりました。来る11月にはコシヒカリの収穫が予定されています。農作物に関しては米、野菜を含めてオーガニック栽培の普及を目指しています。またアジア工科大学(60年の歴史を持つ国際大学院大学。在バンコク)からも農家の建設資材の試作、淡水養魚等の分野での協力の申し出を受けています。
パイロット・ファームの予定地の残り2/3の開発作業は乾季(11-6月)を利用して始める予定です。先ずやっていかなけらばならない事は、農民が「今日どうやって食べるか」という問題の糸口をつけることです。養鶏や養魚の普及、苗場の設営など早急に手を付ける予定です。併せて「明日彼らがより多くの子供達を中学にも通わせることの道作り」をより確かなものにしていく必要があります。我々の活動軸は前述の通り村の自立に向けた「技術移転」にあります。12 hrの土地はそのための基地です。中・長期的には12 hrの土地に安定した水の供給を可能にするための貯水池や作業場、そして作業員のための宿舎などの基本設備を設けていく計画です。
最後に、プレアビヒアは広大な自然と美しい環境に恵まれた土地です。山麓の一部は雨季になると美しい湿地帯になります。森林に囲まれている開墾集落の近くには全く整備されていない小さな遺跡が散見できます。プレアビヒア寺院だけではなく、将来的にはむしろその先に広がるビレッジのトレッキングやサイクリングなど、「農村観光の可能性」に目を向ける時が来るでしょう。
今地元ではここを“カンボジア一美しい村”にしようという目標を掲げる動きが出てきています。貧困からの脱却と、併せてこの夢にも力を貸そうという人達が一人でも多くなる、プレアビヒア元年がそう云ったきっかけになる年であって欲しいと願っています。